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酒ない支援スレ VER3
203 :
酒ない
◆fMFJeA/W0Y
:2019/07/31(水) 03:58:46 ID:SZm6kk1k
「本当に、困った人たちですね」
「きちんと謝ったからいいさ。それに、そもそも"通い"で5時半に出てこいってのは無理があったしね。だからちょっとやり方を変えよう」
「やり方、ですか?」
「モジャが親父さんに殴られずにすむようにしようってことさ。まだ蒸し上がりまで時間があるし、見せておこうかな。3人ともついてきて」
トージは、リタとテルテルとギョロメを引き連れて、蔵の建物を出る。
石壁に囲まれた賀茂篠酒造の敷地内を少し歩くと、二階建ての小さな建物にさしかかった。
共通の入り口がひとつ。無数の窓。見た目はアパートにそっくりだ。
「この建物は……?」
「ここは、賀茂篠酒造の社員寮なんだ。酒造りシーズンは、蔵人の一部が泊まり込みで作業するからね。寝泊まりできる場所を用意しているというわけ」
廊下を通り抜け、並んでいるドアノブのひとつに鍵を差し込む。
細長い部屋のなかには、ベッドと机、簡易キッチンにユニットバス。
小型冷蔵庫と液晶テレビもあるが、電子レンジはない。
典型的なキッチンつきワンルームマンションの構造だった。
「これと同じ部屋が合計で7部屋あるんだ。モジャ、今日からこの部屋を使っていいから、3月の末まで泊まり込みで働いてくれないか」
「こ、この部屋で、だか……?」
唐突に住み込み作業を要請されたモジャは、かすかに震えていた。
その目は綺麗に掃除された室内にくぎ付けになっている。
「ちょっと狭いかもしれないけど、住み心地は悪くないよ。部屋ごとに鍵も付いてるから貴重品も持ち込んでかまわない。休日は週1日、食事は1日3食、休みの日も給料を出す。どうかな?」
「い、いや、部屋に文句なんかねえだ。こんな高そうな部屋、使ってええだか……」
「気にすることはないよ。僕も使ってた時期があるしね。ちなみにノッポとギョロメにも頼むつもりだ」
「もちろんやるだよ!」
「ありがとう! 助かるよ。午後の仕事が終わったら、ご家族にも説明してきて」
モジャは、おずおずと室内に入り、ベッドの感触に驚いたり、布団の手触りにうっとりするなど、部屋のあらゆるものを大事そうに検分している。
そもそもトージが寝込んだときの様子でもわかるように、農民の子供が自分の部屋を持つことなど普通はない。夜は、木枠の中に藁を敷いたベッドで雑魚寝である。
調度品のそろった部屋をひとつ与えるというのは、破格の待遇なのだ。
「……トージさん、なんで雇い人に、このような部屋を?」
トージの後ろに控えていたリタが、信じられないという表情でトージに聞く。
「ひとつは朝も話したとおり遅刻対策だね。考え直したんだけど、日が昇る前から山道を登ってくるのは危ないよ。それに、目覚ましでご家族に迷惑をかけるのもよくないしね」
「たしかに、それはそうですが」
「それともうひとつ、ここからの工程って、たまに深夜に起きて作業しなきゃいけないことがあるから。僕以外にも泊まり込むスタッフが要るんだ」
「夜中に作業があるんですか!」
「毎日じゃないけどね。リタんちだって、夜中に家畜が産気づいたら、出産を手伝うことがあるだろ? それと同じだよ」
「うーん……」
「あいつらに個室を使わせるのがそんなに気になる? 優遇とかそういうんじゃないよ。蔵人が泊まるために作った建物なんだから、使わなきゃもったいないじゃん」
トージがリタにそう説明していると、その脇でテルテルも部屋をながめている。
「あ、そういえばテルテルも部屋、使うかい?」
「ん、いらない」
「遠慮しなくてもいいよ? 部屋はまだあるし」
ぷるぷると首を振ってトージの申し出を断ったテルテルは、部屋の床を指さしてトージのほうを見る。
「土、ないから、おちつかない」
「そっか、大地の精霊だもんな」
「ん」
テルテルは小さくうなずいて、トージから離れていく。
一方、トージがテルテルと話しているあいだ、リタは何やら考え事をしていたようだったのだが……
「あの、トージさん」
「なんだい?」
リタは力一杯の決意を込めた顔で、そう告げた。
「私にも部屋を使わせてください! 私も、蔵に住み込みます!」
「ええっ!? 君が!?」
若干16歳の美少女が。
年上の男たちが何人もいる仕事場で。
ひとつ屋根の下で暮らしたいと言い出したのである。
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