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酒ない支援スレ VER3

230 :西元十仁 ◆fMFJeA/W0Y :2019/10/19(土) 15:58:09 ID:pdTF0ZET
第29話 2日目の麹造り(前)

 ピーンポーン、ピーンポーン

 深夜の暗闇に、蛍光灯の光とチャイムの音。

 ピポピポピポピポピーンポーン

 扉の外には3人の男。ドアノブの前に立っていた男は、懐から棒状のものを取り出し、錠前に差し込んでカチャカチャといじりはじめた。
 くいっと左にひねると、カチャリと音を立てて錠が開く。

 男たちは扉を開き、室内に侵入する。
 真っ暗な室内には、ベッドの上ですうすうと寝息を立てる人影ひとつ。
 部屋に侵入した男が壁際に手を伸ばすと、とたんに室内は白い光に包まれる。男は突然の光にもぞもぞ動き始めたベッドに近寄り、強引に布団をはぎとった!

「いつまで寝てんだ、ギョロメ!!」

「ん……? ぶひゃぁっ!?」

 真夜中にたたき起こされたギョロメの前には、肩をいからせた雇い主のトージと、眠そうに目をこすっているノッポとモジャが立っていた。

「トージ様、なんでこんな夜中に」

「真夜中に作業があるから、早めに寝ておきなよって言っただろ?」

「んが、そういやあ……!」

 ギョロメの枕元にあるデジタル時計は、1時25分を指していた。

「ようやく目が覚めたかな。それじゃ、着替えて作業始めよう」

 トージは、まだ若干ふらついている3人を引き連れ、蔵に向かって歩き出した。

――――――――――◇――――――――――
 
 賀茂篠酒造の麹室にやってきたのは、4人の男たち。
 昼の作業よりも人数が少ないのは、リタとテルテルがいないからだ。
 リタは住み込み作業の許可が下りなかったため、自宅で就寝中。
 テルテルは夕方に地面に潜ってから姿を見せていない。おねむのようだ。

「さて、昼間の作業で蒸した米に種をまいたわけだけど、12時間たったから、そろそろ芽が出ているはずなんだ」

「もう芽が出るだか? 麦なら2日はかかるだが」

「これを見るかぎり、もう出てると思うよ」

 トージが指さしたのは、布に包んだ蒸米のなかに差し込んだ、温度計のデジタル表示板だ。温度は33.7度を示している。

「昼に米を冷ましてから包んだとき、温度は30.5度だった。3度暖かくなっているということは、コウジカビが発芽して成長しはじめた証拠なんだ」

 トージはそう説明しながら、米を包み込んだ布を開いていく。

「……なんも変わってねえように見えるだが……」

「これを使って見るといいよ」

「ん? こりゃ、なんだべ?」

「虫眼鏡。小さいものを拡大して見る道具さ」

「おー、でっかくなっただ」


 トージから虫眼鏡を受け取ったギョロメが、その大きな目を不思議そうに動かして米をのぞき込む。

「だども、やっぱり変わってねえように見えるだが」

「いやいや、米の表面に、白い点がポツポツとついてるだろ?」

 米粒ひとつに1〜3個程度ついている小さな点。
 それはゴマ粒はおろか、食塩の粒よりも小さかった。

「そのちっちゃな点が、コウジカビの芽なんだよ」

「こんな小さいだか!」

「いや、種が粉みてえに小さいんだから、芽だって粉みたいに小さかろうべよ」

「んだんだ」

「その芽を3日かけて立派に育てるのが、僕ら蔵人の仕事ってわけさ」

 そう言ってトージは、得意げに胸を張る。

「それでこれからやるのは“切り返し”って作業だ。この蒸米の塊、外側はすこし冷えて乾いてるんだけど、内側は熱気が籠もって暖かく、湿っているんだよね。温度と湿度が高めのほうがコウジカビは早く育つから、このまま放っておくと成長にムラが出ちゃうわけだ」

「そりゃいけねえ。麦も、完熟した穂と未熟な穂が混じってると、収穫がめんどくせえことになっちまうだ」

「そのとおりだね。なので温度を均一にするために、この塊をほぐして、よく混ぜて温度を均一にしよう」

 トージの号令を受けて、蔵人たちは切り返しの作業を開始する。
 わずかに水分を吸った蒸米は、12時間でガチガチに固まっている。これを、米粒を壊さないように慎重に、バラバラになるようほぐさなければいけない。

「ふい〜、この仕事、結構きついだな」

「見た目は楽そうに見えるだろ? 実際は水を吸って重くなった米をいじるんだから、けっこう重たいし大変なんだよね」

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