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酒ない支援スレ VER3

80 :酒ない ◆fMFJeA/W0Y :2019/03/26(火) 15:43:17 ID:DODckN21

 そう語りながら、トージのテンションはいつもと変わらない。
 彼も「祭」と名前が付いていればなんでも興奮するわけではない。
 あくまでトージが愛しているのは、多くの人が集い、賑やかに楽しむ、祭りの晴れがましい空気感なのだ。

「土地の神様……もしかして、土地ひとつひとつに神がいるのですか?」

「土地だけじゃないよ。僕の故郷では、|八百万《やおよろず》の神っていって、世界中ありとあらゆるところに神がいるって考えるんだ。酒の神様も何種類もいるし、米粒ひとつにだって神が住んでると考えられてたよ」

「わたしたちの常識では考えにくいことですね……」

「こっちでは、神様は沢山いないんだっけ?」

「沢山どころか、神と呼ばれるのは、世界で唯一、母なる女神様だけです。女神様は、自分の手足として、|地水火風氷《ちすいかふうひょう》の五種の精霊を無数に従え、この世界と人々を守護されています」

(唯一の神の下に、無数の神の使い……キリスト教みたいなものかな?)

 トージはそう、地球の宗教事情に思いを馳せる。

「……そういえば、トージさんが言うような教えもありますね」

「へえ、どんなの?」

「東の果てには、女神様の存在を認めず、精霊様だけを信仰する国もあると聞いたことがあります……そういえば、この地鎮祭というのは、こちらの人間には“地の精霊”に挨拶する儀式に見えますね」

「なるほどね。異端者として吊られるのは嫌だし、今後はそう説明することにするよ」

 そうおしゃべりしている間にも、トージの手は休みなく動いていた。
 シンプルな構造の祭壇は、すぐに組み上がる。

「それじゃ、さっそく始めようか。ただ、正式なやり方なんてわかんないから、なんちゃって地鎮祭だけどね」

 トージとリタは、井戸水で手を清め、祭壇に供物を備える。
 五つの小さな器には、炊いた米、塩、水、焼き魚の切り身、そして賀茂篠酒造の酒が満たされている。
 トージは祭壇の前で二度礼をし、パンパンと二度柏手を打つ。

「土地神様か地の精霊様か、存じ上げませんがご報告します」
「私、鴨志野冬至は、なんの因果かこの地に流れ着き、ここで暮らしていくことになりました」
「これからこの地で、米を育て、酒を造って生きていくつもりです」
「この地を米作りと酒造りに使うことをお許しください」
「お礼として、僕たちが去年作った米と酒をお供えします」

 トージはそう唱えおわると、大きく一礼して祭壇の前から下がった。
 そして、リタから一升瓶を受け取ると……

「この世界には酒がないみたいですから、酒と言われても何のことかわかりませんよね。こういう飲み物ですんで、ご賞味くださいよ」

 そう言って、地面にドプドプと酒を注いだのだった。

「ずいぶんたくさん注ぎましたね、トージさん」

「この広い田んぼの神様だしね、おちょこ一杯じゃ満足できないでしょ」

 大吟醸酒を一本まるまる田んぼの地面に献上し、片付けをはじめようとしたその時だった。

「トージさん! 下、下です!」

「ん、なんかあった?」

 リタの指差す先を見ると、さっきまで祭壇が置かれていた場所の地面がもこもこと盛り上がり、ひび割れはじめている。

「モグラ……? にしてはデカすぎる」

「下がってください! 危険です!」

「あ、あぁ、わかった!」

 ふたりは、大きなカボチャのように盛り上がった地面から距離を取り、じっと成り行きを見つめる。
 やがて盛り上がった土はパンとはじけ……

「……っ、ぷぁ」

 トージとリタがそこに見たのは……ルーティと同じくらいの年齢に見える、幼い女の子の上半身が、地面から生えている姿だった。

「さっきの、ちょうだい」

 地面から生えた女の子は、両手をトージに差し出しながら、小さくて高い声で、そうつぶやいた。

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