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董卓の娘相談スレ

46 :名無しさん:2021/02/07(日) 15:55:42 ID:lwLall0M0
>>45

「えっと、青ちゃんは特に変わりはないか? 体調は?」

「はい、お父様、体調は特に問題ないです。
 ただ、神がついてるとか言われても困りますけど。その……」

「どうした? 何か気になることがあるかね?」

「匈奴の人たちが可哀そうなんですが、ウマをとりあげなきゃいけませんか?」

「ふむ、その話か……」

 場の空気がすぅっと冷えます。

「……あの県令のバカ者が。
 河東郡では南匈奴とうまくやらんといかんことすら理解できんのか」

「主公。今回の県令の動きは本気でまずい。
 偽勅を南匈奴に発してる可能性がある」

「……県令め……十常侍の血縁だからと思い上がっているな。宦官どもめ!!!!」

 そう言ったお父様の目は、いつもの優しい目ではなくて、とっても怖くて。
 私は一歩も動けませんでした。漏れそう。
 やっぱりお父様は董卓でしたぁ!!


 それからしばらくの時が流れました。
 県令はほどなくクビになり、ウマは無事に匈奴さんたちの元に戻ったそうです。
 そうなるまでの間に李さんと郭さんが県令の屋敷に殴りこんだり、いろいろあったようで、李さんが自慢げに話してくれました。

 県令は十常侍の血縁なので、身体だけは無事な状態で洛陽に送り返されたとか。
 十常侍って、黄巾の乱の原因になった、汚職ばかりする皇帝の側近ですよね!?
 お父様は十常侍が心底嫌いみたいで、十常侍の話が出ると、すごく怖いです!!

 まあ、7歳の小娘には関係のないことです。
 まだ戦乱も起きてませんし、勉強をいろいろしていいと言われましたので、いまは家庭教師のみなさんの授業を受けながら、市内を見て回って見聞を広めています。
 なんといっても私は漢王朝の常識ゼロの箱入り娘ですから。
 一族全員皆殺しを回避して、生き延びるためには、知識も常識も足りてません。

 高度な知識みたいなやつは、お父様がつけてくれた家庭教師からいくらでも教われますけど、世間の常識ってやつは、外の世界を見聞しないと身につきません。
 だから私は、ときどきこうして馬車で市内を見て回っています。
 正直、出なくていいなら何年でも部屋に籠もっていられるタイプですが……
  普通の人が何を食べているかとか、どんな服を着ているかとか、どんな不満があるかとか、知っておいたほうが得ですからね。

 もちろん私は太守の娘ですから、ありのままの庶民の暮らしというのはなかなか見ることが出来ません。みんな恐縮しちゃいますから。
 だから案外、町中の落書きなんかがいい情報源になってくれたりするんです。
 落書きは恐縮したりしませんからね。

「御者さん、すこし止めてください」

 ちょうど民家の壁に落書きを発見しました。
 落書きと言っても、21世紀のウェーイな人たちが書き殴った落書きとは違って、知識人の書く落書きですからね。そもそも知識人じゃないと漢字書けませんから。
 意外と名文だったり、クスっと笑えるユーモアがあったりするんです。
 さてさて、この落書きはどんなのかなー?

 天 歳 黄 蒼
 下 在 天 天
 大 甲 當 已 
 吉 子 立 死  

 蒼天已に死す。黄天當に立つべし。
 歳は甲子に在りて、天下大吉ならん。

 ……黄巾党のスローガンじゃないですかぁぁぁぁ!!
 ん? 年は甲子に在りて?

「御者さん、御者さん」

「なんでございましょうか、お嬢様」

「……今年って何の年でしたっけ」

「今年ですか。元号は光和の七年。干支はひとめぐりして甲子にございます」

 甲子の年……今年から、黄巾の乱……?
 ぱたり。

「お嬢様!? お嬢様が卒倒なされた! 急ぎ屋敷に戻ります!」

 遠のく意識の中、私が愛する平和な日々が、はやくも終わってしまったことに、深く深く絶望していたのでした。

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