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酒ない支援スレ VER3
162 :
酒ない
◆fMFJeA/W0Y
:2019/07/02(火) 17:09:57 ID:Sx29r+44
リタは感心した顔で、語り続けるトージを見つめている。
一方で水の大精霊ネーロは、いらだちを隠せないまま黙り込んでいた。
「さて、お酒も入ったところで“試し”の話に戻りましょうか。……おや? 水の大精霊ネーロ殿。顔色が悪くありませんか?」
「……やかましい!」
「大丈夫だそうですので続けましょう。リタさん、じつはですね、温度によって味が変わるのは、水も同じなんですよ。暖かい水は甘く感じ、冷たい水は苦みが強くなります」
トージはそう言いながら、研究室で見せたものと同じ、意地悪い笑みを浮かべた。
「甘みと苦み……? あっ!」
「気付いたみたいですね、リタさん。そう。2つめの試しで出された3種類の水、僕らは味が違うと感じました。左の水は苦く、中央と右の水は甘い。それは、出された水の“温度が違っていたから”なんですよ!」
祭りで鍛えた張りのある声でそう宣言しながら、トージは芝居がかった動きで両手を大きく広げてみせる。
「そして、僕らが試行錯誤しているあいだに、水の温度は4つとも“気温と同じ”になってしまった。だから、さっきリタさんが水を味見し直したとき、4つの水は全部同じ味になっていたんです! つまり!!」
ネーロの顔に向かって、トージの右手人差し指が突きつけられる。
そのポーズは、トージの少年時代に大ヒットしていたミステリー漫画の探偵少年を、気味が悪いほど完コピしていた。
「謎はすべて解けた!!
僕が求める水と同じ水は、
“この3種類すべて” です!
違いますか!? 水の大精霊ネーロ殿!」
「ぜんぶ、おなじ?」
「ぜ、全部正解だなんて、そんなのありなんですか!?」
「だってリタさん、テルテル、ネーロ殿は“どれが貴様が求める水と同じものか示せ”と言ったんだよ。一度も“正解の水はひとつ”だなんて言ってない」
トージは自信満面の表情で、両手を腰に当てて水の大精霊に向き直る。
「ネーロ殿。
あなたは1つめの試しで、僕たちに“正解は1個”という先入観を植え付けました。
そして2つめの試しでは、同じ水に、温度を使ったトリックで違う味をつけて、
僕たちが“ひとつだけ味の違う”水を選ぶように仕向けたんでしょう?」
「なぜだ……なぜ人間ごときが、我が罠を見破ることができる……!」
「ネーロ殿。あなたの罠は、とてつもなく完成度が高いものでした。
もしも、その甕に入った“正解の水”と、
左の皿に満たされた“誤答を誘導するための水”が、
|まったく同じ味《・・・・・・・》だったなら……
僕たちはためらいなく、左の皿を“正解”に選んだでしょう。
ですがそうはならなかった。
左の皿と、甕に満たされた正解の水は、微妙に味が違いました」
「そんなはずはない!」
「あなたは、そうするつもりなどありませんでしたよね。わかります。
では、なぜそうなってしまったのか?
原因はね、器ですよ。
ネーロ殿。あなたは1つめの試しの後、リタさんに皿を清めさせましたね。
そのときリタさんが皿を洗った水は、井戸水です。
この大地の下でキンキンに|冷やされた《・・・・・》……ね」
「ま、まさか……!」
「ご明察です! さすがは水の大精霊!
問題の水を満たす皿が、井戸の冷水で冷やされた!
その皿に“僕が求める水”を注いだら、熱が皿に奪われ、水は冷える!
冷えた水は、甕に入った“僕が求める水”より|苦くなった《・・・・・》!
だから僕たちは、幸運にも、
あなたの敷いた“誤答への誘導”を外れることができたんですよ!」
イキイキと「探偵役」を演じるトージに、唖然とするリタ。
一方、ネーロはトージを憎々しげに睨みながら、怒りに体を震わせている。
彼の体を構成する水はじわじわと熱くなり、湯気が立ちはじめ……
「ちくしょぉぉぉぉぉ!!」
水の大精霊ネーロはそう叫ぶと、応接室の窓ガラスを突き破って飛び出した。
「あっ! こら! 逃げるな!!
水おいてけぇ〜!!!」
盛大に割れ砕けた応接室の窓から、トージの叫びがむなしく木霊した。
――――――――――――――――――――――――
(蔵人頭の源蔵)じっちゃんの名にかけて!
作者はどちらかというと冷酒派なのですが、お酒へのお燗のつけかたは奥が深いです。
お燗については、機会があったらもうちょっと踏み込んで解説してみたいですね。
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