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酒ない支援スレ VER3

223 :酒ない ◆fMFJeA/W0Y :2019/09/26(木) 20:44:52 ID:OFxDwXL4
 昼食を済ませ、蔵の掃除を終えたトージと蔵人たちは、一時帰宅していた。
 なにせ今日から蔵人たちは、寮に泊まり込みで作業をすることになるのだ。トージは蔵人たちの家を巡って、うわばみたちを蔵に泊まらせることを説明して回らなければいけなかった。
 トージにとっては意外なことに、うわばみの家族の反応は良好だった。
 特に「朝昼夕の3食は蔵で用意する、給料は今まで通り」と説明すると、目を丸くして驚かれたものだった。

「どの家も食べ物が苦しいですから、食い扶持が1人浮くというのは本当に助かるんですよ」

 不思議そうな顔をしているトージに、リタがしみじみと説明した。
 さっそくうわばみたちは、極少ない私物をまとめて寮の部屋に移ることになった。
 そろそろ太陽が、あたりをオレンジ色に染め始めるころ。
 トージは最後の目的地で、リタとともに交渉相手と対面していた。

「……駄目です、認められません」
「お母様、どうして!」

 重々しく告げたレルダの言葉に、リタが噛みついた。
 
(まあ、当然そうなるよな……)

 トージは頬をかきながら、内心あきらめていた。
 交渉の内容とは、リタも賀茂篠酒造の蔵に泊まり込むというもの。
 毎日夕方に帰宅して晩餐を作り、家族と一緒に食卓を囲んだあと、蔵の寮で寝るようにする、というプランだった。
 しかし問題となるのはセキュリティである。
 トージはどうしても、独身の男たちが住む場所で、夜中にリタがうろつくことになるのを、安全だとは思えなかった。 

(雇い主の自分が、自信を持って「引き受けます」と言えないのに、親御さんが大事な娘さんを預けてくれるわけがない。当たり前すぎる)
 
「わかっているのでしょうリタ。あなただけの体ではないのですよ」
「……っ!! そんなことはわかっています!」

 本来なら、雇用者であるトージ自身が、理と情を駆使してリタの家族の説得にあたらなければならないのだ。しかし、そうするだけの自信が持てない。
 しかし、このままリタを昼間作業だけのパートタイマーとして雇っていれば、リタが酒造りの核心に触れることはできないだろう。

(彼女は、蔵人たちのなかで一番高い熱意をもって酒造りに取り組んでいる。そんな彼女をはじき出してしまうのが、本当に正しいことなのか?)

 リタとレルダの口論を前にしながら、トージは結局、自分はどうするべきなのか、答えを見つけられずにいた。
 そんななか、いつ終わるとも知れない口論は「パシン!」という小さな破裂音と共に終わりを告げた。リタの母親レルダが、娘の頬を張ったのだ。

「おい、母さん!」

 これまで渋い顔で母と姉の口論を見守っていたロッシが、母の手をつかむ。
 息子に止められて、レルダは力が抜けたようにため息をついた。

「リタ」

 呼びかける母の声に、リタは応えない。
 レルダは困りながらも言葉を継いでいく。

「あなたは家のために、ロッシとルーティのために頑張っているわ」

 それは、さきほどまでの口論とはまったく違う、いたわりの思いを乗せた、穏やかな母の声だった。

「あなたのやりたいことくらい、やらせてあげたいわ。でも、家長として認められない一線があるの。リタ、あなたはそれをわかっているはずよ」

 レルダは、無言でうつむく娘にそれだけ言い残すと、トージに一礼し、台所へと退いていった。
 あとに残されたのは、リタとロッシ、そしてトージの3人だ。

「ったく、母さんも姉ちゃんも頑固なんだからよ」

 ロッシは腰に手をあてて、そうため息をつく。
 無言のまま顔を伏せているリタの白い頬は、うっすらと赤くなっている。
 トージは、思わずその頬に手を伸ばしそうになり、あわてて手を引っ込めた。

「ごめんよ、リタさん。僕のせいで痛い思いさせちゃったね」

「トージさんのせいじゃありません……」

「いや、完全に僕のせいだよ」

 そう言ってトージは、丸太の椅子から立ち上がる。

「正直なことを言うと、僕はレルダさんの言うことは非常によくわかるんだ。女の子があの寮でひとり暮らしをして、しかも深夜に出歩くのは危ないよ」

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