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酒ない支援スレ VER3

45 :酒ない ◆fMFJeA/W0Y :2019/03/17(日) 16:05:10 ID:EY9E8WKG
「そんなわけで、初めてのお酒をみなさんで楽しみたいと思い、この席を設けていただきました。あらためてレルダさん、ありがとうございます」

 それに応えて、レルダがぺこりと頭を下げる。
 レルダの号令にあわせて、リタたちが食前の祈りをささげ、トージは手を合わせて「いただきます」と唱え、食事会がはじまった。

「それでは、できあがった新しいお酒、クワスを注がせていただきますね」

 トージはそう言うと、クーラーボックスからペットボトルを取り出す。
 色はビールよりもやや黄色く、うっすらと濁った黄金色。
 蓋をひねると、炭酸の抜ける「プシュッ!」という音がした。

「わっ!? なにこれ!?」

「びっくりした? 飲んでみればわかるよ」

 音に驚くルーティのマグカップに、クワスを注ぐトージ。
 ビールとサイダーの中間くらいの量の、細かい泡がたち、かすかにシュワシュワという炭酸のはじける音が響いた。
 香ばしい麦の香りとアルコールの香りが、リタ家の食卓を満たしていく。

「ふわぁぁぁ……」

 ルーティは、マグカップの水面ではじける泡に夢中になっている。
 そのあいだにトージは、全員のマグカップに黄金色のクワスを注ぎ終えた。
 するとルーティが何かに気付く。

「……あれ? トージお兄ちゃん、これっておさけだよね? 子供はおさけ飲んじゃだめなんだよ?」

「そうだね、でもこのお酒は、とっても薄いお酒だから、ルーティちゃんも飲んで良いんだよ」

「そうなの!? やったー! 兄ちゃん、ルーティも飲めるってー。へへーん」

「はいはい、わかったわかった」

 ルーティがロッシに自慢する姿を、リタが笑顔で見守っている。
 どうやらルーティは、謝肉祭で自分だけ酒を飲めなかったことを残念に思っていたようだった。
 甘酒のカップを手に持って、強がっていた姿が思い出される。

(でも、賢い子だよ。僕の前では全然言わないんだから)

 ビタミンと糖分が豊富に入ったクワスは栄養満点。
 年のわりに小さなルーティの成長を、ほんの少しだけでも助けられるはずだ。
 そんなことを考えながら、トージは皆にクワスを注ぎ終えた。

「それでは、お召し上がりください」

 トージの声に応えて、レルダ、ロッシ、ルーティの3人がカップを傾ける。
 事前に味見済みのトージとリタは、3人のリアクションを待つ体勢だ。

「うわっ、なんだこれ」
「しゅわしゅわしてるー!!」

 ロッシとルーティが驚きの声をあげ、レルダが疑問の声をあげる。

「トージ様、このぴりぴりは何でしょう? 経験したことのない舌触りです」

「それはですね、酒のなかに溶けていた空気が、外に飛び出して泡になっているんです。その泡が割れるときに、ピリっとした刺激があるわけですね」

「ねえトージお兄ちゃん! これ、つめたーい! あと、甘いよー!」

 ルーティがマグカップを両手で大事そうに抱えながら、大きな目をキラキラさせて喜んでいる。

「うちの蔵で冷やしてきたんだよ。甘いのは、砂糖や果物が入ってるからだね。少し苦みもあるけど、大丈夫かな?」

「へーき! ルーティ、苦いのへーきだもん! 肝も食べられるよ!」

 ニコニコしながら、すこしずつクワスを飲み続けるルーティに心が和む。
 家長のレルダも、静かに初めての飲み物を味わっていた。

「薄いというお話でしたが、味は濃厚ですね。ただ確かに、謝肉祭のニホンシュとくらべると、お酒の“カーッ”となる度合いは少なく感じます。それにしても砂糖を使ったのですか……贅沢です」

「今回は実験のために、ちょっと贅沢しました。砂糖なしでも、こんなに甘くはなりませんが美味しく作れますよ」

「そうですか。村の者たちが飲むには、そちらのほうがよさそうです」

 そう言ってふたたびカップを傾けるレルダも、それなりにクワスを気に入ってくれたようだった。
 皆の反応を見終えたあとで、トージも自分のクワスを喉に流し込む。

 麦のビスケットを主原料にしているだけあって、クワスには濃厚な焦がし麦の風味がある。日本人には麦茶の風味というと伝わりやすいだろう。
 麦茶との違いは、奥深く濃厚な甘みだ。
 一般的な炭酸ジュースと違い、このクワスにはカラメルの甘み、果物の甘み、そして麦芽飲料のような麦の甘みが混在し、複雑な風味を作り出している。
 その多様で、クセのある味を、かすかな刺激で引き締める低アルコール。
 地球のロシアで伝承されてきた正式なレシピでは、ビスケットではなくライ麦パン、カラメルではなく蜂蜜を使う。そのため味は若干違うが、ロシア人のソウルフードのひとつとして、何百年も愛飲されているだけはある完成度だった。

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