ローカルルールを必読のこと

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神奈いですの雑談スレ11

1 :神奈いです ★:2025/01/10(金) 00:09:59 ID:admin

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           ': : : : : : :l: : : : : :八:ハ|ミ \|  ィ示雫、: : :\_:l}: : : : : : : : : : : : :.
         ./: : : : : : : :l:l: : : l: :r灯ま圷 ,   トこ刈 }〉l: ̄: /: : : : : : : : : : : : : l :
        /: : : : : : : : :lハ: 弋:ゝ V少      /:./:.  /x=∨ : : : : : : : : : : : : : l           董卓の娘、カネない若君よろしくな。
        .' : : : : : : : : : : : Vヽ∧ /:./:.         '"_ノ }l: : : : : : : : : : : : : : :l :
       ,': : : : : l: : : : : : : : : 人‘,     ヽフ   u /-‐'" 丶 : : : : : l: : : : : : : l
      :  l: : : : : :l: : : : :l: : : : : / ヽ           イ/ _ ゝ: : : : :l: : : : : /:/
       _r…‐-=ニ : : : :l: : : /, - _ ニ-‐    __ <〉 _,,>,/  ニ\',: : : : : : : : :/:/
     r<         ``寸く{//    _,,, -‐=ニ二三‐ ゚《 ニニニ\: : : : : /:/
     Yi三二ニ=‐-   rr__}/_,r-‐=ニ二三二ニ=‐----- '《 ニ{, -l\ヽ/ l: {
      Yi三三二ニ=‐- Yi:[ ̄Yi三三三三二ニ=‐-----'《」ニニV ハ }  ヾ(
      Yi三三二ニ=‐- YLニ-Yi三三三三二ニ=‐-----゚《 ニニVl Lム  :
        Yi三三二ニ=‐- YLニ-Yi三三二ニ=‐- ア´ ___ `゚'≪ ニlー‐'
       :  Yi)===ミ二ニ=‐ YLニ-Y三三二ニ=‐-/ /---\ `寸  、
         ア゚ ,,-c。\ニ=‐- _YLニ-Yi三二ニ=‐-└ァ´ ,,-- ,,_   Y 〉  :
       Y '゙´ ̄ ̄\j二ニ=‐-YLニ-Yi三二ニ=‐-└ァ'’ ̄ ̄    .}  }
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神奈いですの雑談スレ10(董卓の娘投下報告スレ)
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神奈いですの雑談スレ9(文明復興行動案相談スレ)
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神奈いですの雑談スレ8(文明復興行動案相談スレ)
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神奈いですの雑談スレ7(文明復興行動案相談スレ)
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神奈いですの雑談スレ6 (図書館皇子議論スレ)
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 DISCORD (捨て垢でどうぞ) https://discord.gg/jYv8Kfc ※使ってない
 ついったら 直接連絡はこっちに@kana_ides ※使ってる


1026 :神奈いです ★:2025/08/16(土) 22:08:22 ID:admin
どこかで「ミリエSide」いれたほうが読者にやさしいかな?

あんまり好みでない

1027 :名無しさん:2025/08/16(土) 22:11:46 ID:fwT1YmKI0
一話完結ならヒロイン視点はなくてもいいかな

1028 :名無しさん:2025/08/16(土) 22:13:42 ID:jDfcpA1d0
あ、なるほどなら大きな問題ではないですね

1029 :神奈いです ★:2025/08/16(土) 22:17:39 ID:admin
ミリエは事態についていけてないようで目を白黒させている。

で終わってるけど、実は混乱→状況の把握(助けてくれたの?)→感謝→信頼に移ってるのを……


あとで「あの時だけでなくずっと助けてくれたので、私にもあなたを支えさせてください」って言わせればいいか。

1030 :神奈いです ★:2025/08/16(土) 22:20:42 ID:admin
ヒロインが主人公に助けられてばかりだけど、お返しする輪作と焼酎がなんか最後のほうになってるなぁ。

連作障害に気が付くシーンをもう少し詳しくするか。

1031 :神奈いです ★:2025/08/16(土) 22:22:28 ID:admin
そうだ、情景描写いれたほうがいい箇所あったら指摘お願い

1032 :神奈いです ★:2025/08/17(日) 00:06:38 ID:admin
いや、自分の弱点が作品の全体像をちゃんと整理できないことだと思うので、短編何回か書けば治るかなって

1033 :神奈いです ★:2025/08/17(日) 00:07:49 ID:admin
あとバクマン読んだから読み切りで力を試すべきやと

1034 :神奈いです ★:2025/08/17(日) 02:28:59 ID:admin
感想足りないから、AI君に感想つくってもらったわ(??)

1. 没入型オタク
#今イモ読んでる
いきなり領主会議でイモ却下されて草。ここから逆転フラグでしょ?ワクワクするわ

ミリエきた!メガネ文官ヒロイン、推せる(尊い)

焼きイモうまそう描写きたあああ #飯テロ

おい王都の貴族ふざけんな…!!でもこれは逆転イベント確定だろ

ルーギン、国王の前で叫んだww熱い!!

“亜種トリュフ”作戦、天才か?この発想力、俺も欲しい

寒波で麦全滅したのにイモで助かった…泣いた

ラストのプロポーズも最高。尊い。アニメ化はよ


2. 共感型ロマンチスト
#イモ読書中
ルーギンが必死に提案してるのに誰も聞いてくれない…切ない

ミリエ健気で可愛い、支えてあげたい…

二人で焼きイモ食べるシーン尊すぎる #胸キュン

王都の奥様たち最低すぎて泣いた。ミリエの肩が震えてるのつらすぎる

ルーギン、勇気出して国王に直訴!カッコよすぎ #惚れた

トリュフ作戦で少しずつ広まるの感動する…涙止まらん

プロポーズ…はい……って言ったミリエの返事で完全に涙腺崩壊

3. 理屈っぽい考察厨
#イモ考察
三圃制と聖典による農業拒否、リアルだな。中世的リアリティ高い

ヒロイン=農業研究者って設定は説得力ある。いい役割分担

味覚描写+腹持ち=栄養価の説明、ちゃんと科学的だわ

貴族が「光らない=価値なし」って扱うのも歴史的に正しい行動原理

ルーギンの直情的アピール、王が曖昧に肯定→絶妙な政治バランス

“亜種トリュフ”=リブランディング戦略。実際にジャガイモ普及で似たことあったよな

輪作導入と蒸留酒生産、農業技術史的にも筋が通ってる。いい寓話


4. 気分転換ライト層
#イモなう
最初から会議でイモ却下されて笑ったw

ヒロイン登場!恋愛フラグ立ったな

焼きイモ美味そうすぎて腹減った #夜食テロ

貴族マジでムカつく。これ次スカッと展開来るやつでしょ

ルーギンやった!声でかすぎwwでも気持ちいい

トリュフ作戦おもろいw農民が盗んで食って広まるの草

最後ちゃんとハッピーエンドで満足!読んでよかった〜


5. クリエイター志向型
#創作の参考メモ
主人公の提案が却下される=序盤の失敗イベント。テンプレだけど必要

ヒロインが専門職=農業担当。役割分担の仕方が上手い

食べる→美味い!でキャラと読者を同時に納得させる手法、参考になる

王都で嘲笑→国王に直訴。キャラの能動性を強調してる

“亜種トリュフ”ってリブランディングの天才。名前変えるだけで価値逆転、覚えておこう

ラストは大団円+結婚。王道だけど創作的に一番読者満足度が高い構成


6. ノスタルジック型
#イモ懐かしい
周囲に理解されない主人公…昔のラノベっぽい展開で安心する

地味に働く文官ヒロイン、こういうの昔よくいたなぁ

焼きイモで「美味い!」ってなるの、王道で良き

貴族にバカにされる→主人公奮起。王道だよな、やっぱりこうでないと

“亜種トリュフ”ってネーミングで貴族を丸め込むの笑ったw懐かしいトリック感

最後に王に認められて結婚…これぞファンタジーの王道エンド

読後感が昔の名作ファンタジーそのままで嬉しい

1035 :神奈いです ★:2025/08/17(日) 03:15:48 ID:admin
『イモ』批判的読者シミュレーション
1. 没入型オタク(批判モード)

不満ポイント:

「序盤の会議シーン、長い説明ばかりでキャラの見せ場が少ない。退屈」

「イモを広めるだけで終わるの?バトルも魔法もないの?」

離脱ポイント:第1〜2節(会議〜遠征回想)で「盛り上がりが遅い」と感じて脱落。

批判レビュー風:「題材は面白いけど、“なろう”的な爽快感が足りない。チートもバトルもないのは人を選ぶ」

2. 共感型ロマンチスト(批判モード)

不満ポイント:

「ルーギンがずっと失敗してばかりで読んでて辛い」

「恋愛要素が薄い、イモの話ばかりで心の動きが描写不足」

離脱ポイント:王都で貴族に笑われ、ミリエが肩を震わせる場面。「ヒロインが救われない」と感じて読むのを止める。

批判レビュー風:「もっと二人の恋愛や心の支え合いにフォーカスしてほしい。農業説明が多くて、気持ちに浸れなかった」

3. 理屈っぽい考察厨(批判モード)

不満ポイント:

「農民が“ニンジンは薬で根は食べない”と言うのは面白いけど、史実的には微妙に不正確」

「イモ普及の困難さが軽く描かれすぎ。現実はもっと悲惨」

離脱ポイント:第7節(亜種トリュフ作戦)。「ブランド名であっさり解決」はリアリティ不足と感じて読むのを止める。

批判レビュー風:「考証が中途半端。せっかく社会風刺的なのに、最後は都合よくハッピーエンドで薄っぺらい」

4. 気分転換ライト層(批判モード)

不満ポイント:

「説明多くてテンポ悪い。もっとさくっと話を進めてほしい」

「暗い場面が長いと読むのしんどい」

離脱ポイント:第6節(農民・家臣に拒否され、自分で耕すところ)。「同じこと繰り返してるな」と感じて読むのをやめる。

批判レビュー風:「短編としては悪くないけど、テンポが悪い。軽く読むには重すぎた」

5. クリエイター志向型(批判モード)

不満ポイント:

「プロットは王道すぎて意外性がない」

「キャラ造形が薄い。ルーギン=努力型、ミリエ=健気ヒロインで記号的」

離脱ポイント:最後まで読むが、執筆メモ的に「使えるネタが少ない」と評価を下げる。

批判レビュー風:「構成は教科書的で無難。でも意外性や独自性は少ない。創作の参考にはなるが作品としては弱い」

6. ノスタルジック型(批判モード)

不満ポイント:

「昔のラノベっぽいけど、逆に古臭い」

「ご都合主義が目立ってしまい、感動が薄い」

離脱ポイント:最終章(王に認められ→結婚→ハッピーエンド)。「予想通りすぎて読む必要なかった」と感じる。

批判レビュー風:「王道で懐かしいけど、もう少し捻りが欲しい。予定調和すぎて今読むには物足りない」


1036 :神奈いです ★:2025/08/17(日) 06:44:29 ID:admin
『イモ』とは、植物が地下に栄養を蓄えて肥大したものである。

加熱すると皮は香ばしく、身はほくほくと甘い。
冷害に強く、痩せた土地でも育つ。
遠い異大陸から来たこの作物は民を飢えから救い、我らをきっと豊かにしてくれるだろう。

「だから、ぜひこの領地で作付けしたい!」

城の尖塔にある執務室に集めた家臣たちの前で熱弁をふるっているのは若い貴族の青年、ルーギン。

彼の管理する領地は山に囲まれ、深い暗い森に包まれた寒々しい土地だ。
寒波の年にはムギは枯れ、飢えた子供たちの泣く声が悲しく響く、そんな土地。

「この土地にこそ、『イモ』が必要なのではないか」
と言い募る彼を、執務室に並んだ老人たちが怪訝そうにどこか心配そうに見つめている。
(若いころは領地のためと新しいことをしがちだが、結局今まで通りのやり方が一番いいのだ……)
とでも言いたそうな目で。

老執事が声を上げた。
「そのような前例はございません」
「いや、前例があるかないかじゃなくて、良いものなんだ」
「良いものかどうかも前例がないと判断ができませんで……
 そうです、他の領地で先に試していただいては?」

そういうことではないと反論しかけたルーギンをなだめるように話し出したのは財務官だ。
「お気持ちはわかりますが、領地の予算は逼迫しており……
 そのような新作物に割く予算はありませぬ」
「いや、空き地に植えるだけでいいのだ、農地に今年は使っていない部分があるだろう」

そこに荘園代官が反論する。
「農地はすべて三圃制で割り付けております!
使っていないというのは休耕地ですぞ!
来年のムギの収穫のために土地を休ませておるのです!
変なものを植えてムギに影響が出たら飢饉です!」
「変なものではない、異大陸では……」

最後に神官が発言した。
「異大陸ですか……この『イモ』とやらは……」

手に掲げた聖典の金箔文字が鈍く光った。
「聖典に載っていませんぞ」
「……は?」

それが決定打だった。
神は全能である。
全能であるのだから人間に必要なものはすでに聖典に載っている。
だから聖典に載ってない食べ物は作るべきではない。

家臣たちはそう結論づけて会議が終わった。

一人ルーギンが残った会議室を冷たい初春の風が吹きぬけていった。



 − − − − −



ルーギンは北辺貴族の三男坊である。

爵位は父から長男へと渡り、あとは貴族の最下位である騎士資格止まり。
三男のルーギンが父からもらったのはこの北辺の山々に囲まれた荘園つきの小城の管理の仕事。
あくまで領主である父の代理であり自分の領地ではない。
一代限りの雇われであり、子孫は平民に落ちるだろう。

(このままではモテない)とルーギンは思った。
頭がよくない自覚があるので武芸で身を立てようとした。
従軍はできたが手柄は立てられず。起死回生を狙って従者を連れて異大陸遠征に志願した。

しかし遠征は平和交易が主で武官の仕事は整列や警備、長期の移動でへばった文官たちや荷物を担ぐぐらいしかやることがなかった。
何も武勲がないままの帰国。

「だが『イモ』を植えるぐらいはできると思ったんだがなぁ」
ルーギンは腕組みをしながら、遠征当時を思い出す。


 − − − − −


遠征隊の文官の一人、ミリエは風変りな娘だった。
ほかの文官たちが金銀や宝石、珍しい毛皮や香料などを調査している中で、彼女は植物に興味があるようだった。
従者を連れて草木を観察しては分厚い使い込まれた植物図鑑を開き、何やらちまちまとメモをしている。

かと思うと、彼女は異種族の農民から彼ら作物の話を聞き出そうとしていた。
なかなか言葉が通じないため、必死に身振り手振りを交えて頑張る。
やりすぎて彼女の大きな眼鏡が吹き飛んだときなんかは、ルーギンは思わず吹き出しそうになった。
笑わなかったのは、眼鏡の奥の彼女の眼がとても真剣に輝いていたからだ。

「文官さん、落とされましたよ」
「あ、ありがとうございます。隊長さん!」

眼鏡を拾ってあげて以来、なんとなく彼女が気になったルーギンは彼女を目で追うようになり、たまに話をする中になった。
彼女は従者を使い慣れているから貴族だろうとルーギンは目星を付けていたらやはり貴族だった。
王室直属の文官で「ローブを着た貴族」、つまり領地なしだ。

ミリエの任務は異大陸での食糧確保、つまりムギ作である。
開拓志願者を指揮して遠征隊基地の周りをちまちまと開墾し、ムギの種を蒔いていたかと思うと、
異種族と身振り手振りで交換した現地の植物を植えては枯らしたり腐らせたりもしていた。

ルーギンは武官としての仕事があまりにも暇なので、上司の許可を得て開墾に参加することにした。
田舎の荘園管理の経験もある彼が加わると、開墾が一気に進んだ。

広がった農地を前にミリエが大きな眼鏡の奥の目を輝かせる。
「隊長さん、手伝ってくださってありがとうございます!」
「いえ、文官さん。これも任務ですから」

真面目な武官らしく堅苦しい挨拶にとどめる。
大きな眼鏡に艶やかな長髪を垂らした可愛らしい貴族娘と一緒に仕事したいだけというのは彼の秘密であった。


ある時、異大陸を寒波が襲い、開花が遅れたムギは実らなかった。
過去の遠征時記録にもないような寒波なので誰のせいでもない。
それなのにミリエはまるで天災が自分のせいであるかのように落ち込んでいた。

ルーギンはそんな彼女を見ていられず、武官たちで相談して狩猟をすることにした。
それなりの量の肉が倉庫に入ったが、当座しのぎにしかならない。

それを見たのか、付近に住む異種族たちが不思議な贈り物を持ってきた。

ルーギンの従者が一つつまんで顔をしかめる。
泥にまみれた根っこの塊だった。

異種族がニコニコとそれを口に運ぶ身振りをする。
片言で説明するには『イモ』という食べ物だというが、ルーギンには信じられない。

(これでも貴族だぞ、こんな汚いものを食べられるわけ……)

しかし、ミリエはにっこりと笑って贈り物を受け取った。

ミリエの従者が「お嬢様がそんなものに触れてはいけません!」といって追いすがるが、
ミリエは従者を押しとどめると『イモ』を焼いて、ルーギンに一つ差し出した。

「隊長さん、美味しいですわよ?いかがですか?」
微笑みながら焼き『イモ』を差し出すミリエ。

「……いただきます」
レディの笑顔を無下にしては貴族が廃る。
前言を翻してルーギンは『イモ』を受け取った。手がじんわりと温かくなる。
恐る恐る皮を割ると、ほろりと皮と実がはがれる。
立ちのぼった湯気が香ばしい香りとともに鼻をくすぐる。

「おお?」
口に入れるとほくほくと甘く、思わず頷いてしまう。

「ちょっと塩味が欲しいですわね、バターとかどうでしょう?」
「これも合う……というか素晴らしい」

ミリエの提案で焼き『イモ』はさらに美味くなった。
少量の塩と油を加えただけで、さらに甘味が引き立った。
そして腹持ちがよい。空腹がいっぺんに収まった。
これは素晴らしい食べ物だとルーギンは思った。

ミリエがなんとか聞き取ったところによると『イモ』は冷害に強く、やせた土地でも育つようだ。
ならばこの作物を故郷に広めれば、ムギが不作なときも飢えなくて済むのではないか。

「文官さん、これはぜひ皆にも食べてもらいましょう」
「そうですね隊長さん」

さっそく遠征隊の食事として『イモ』を支給したが……貴族たちは見慣れない食物に見向きもしなかった。
平民の食べる分のパンを奪い、倉庫の肉を優先的に食べて平然としている。

逆にパンを奪われた開拓民や兵士たちは大喜びで『イモ』を食べていた。
ただ焼くだけじゃなく、スープにしたり、蒸したりしても食べられるのでいろいろ工夫しているようだ。

「この『イモ』は良いものですけど、食わず嫌いの方も多いみたいで……あのぅ……隊長さんは大丈夫でしたか?」
「何がですか?これは大変美味でしたが?」

ルーギンは嘘はついていない。
むしろ彼はミリエが一切偏見なく異種族の食べ物を受け入れているのに驚いた。思ったよりも性根が座っているようだ。

「よし、決めました。私は報告用に『イモ』を持ち帰ります!」
「それはいいですね」

貴族は嫌がっても平民が食べるなら飢饉対策には十分効果がある。
きっと我が国を助けてくれる作物になる。
ルーギンはそう思っていた。

そして、ルーギンとミリエの従者たちが心配そうにそれを見つめていた。

 − − − − −

 
「これ、なんですのぉ?汚いわねぇ」
貴婦人が箱に入った『イモ』を見て吐き捨てた。

王都で盛大に行われた異大陸遠征隊の成果報告会。

王族や大貴族臨席のもとで、金銀や宝石、毛皮に香料などの異大陸の資源が並べられ、
見て回る貴人たちからは賞賛や驚きの声があがっていた。

しかし、ミリエの提出した『イモ』の箱には誰も近寄らない。
ようやくやってきたのが嫌味そうに吊り上げた口角を扇子で覆った貴婦人たちだ。

ミリエは彼女たちの嫌そうな表情にもめげずに早口で説明を試みる。
「これは『イモ』と申します。現地では主食として……」

「主食?こんなものを食べますの?野蛮ねぇ」
「土の中で成るなんて、まぁお下品」
「ほほほ、豚の餌じゃなくて?」
「奥様、それよりもあちらの首飾りを見ませんこと、こんなの見ても」

口々に好き勝手言って去っていく貴婦人たち。
黙りこくったミリエの肩が屈辱に震えているのが見て取れた。

大貴族たちは泥まみれの植物の根などには興味がないようだった。


(荘園の世話など何代も前に放棄して王都で遊んで暮らしてる連中に『イモ』の良さなどわかるものか)

とルーギンは会場の隅に設けられた武官席でガタガタと足を鳴らして、
「おい、ルーギン卿。静かに」と隣の武官に咎められた。

戦争がなかったため、成果報告会では武官は黙って座っているしかない。

(しかし俺に何かできることはないのか……俺はあれがいいものだとわかっているのに!)
ルーギンはまた足踏みを始め、怒られていた。


その時、国王陛下と側近たちがミリエの展示に気が付いた。
「む、あれは何であろうかの?」
「陛下、あちらにもっと面白いものがありますぞ」
「よいよい、せっかく異大陸から持ち込んだのであろう、すべて見ておかねば……」

(ダメだ。国王にまで馬鹿にされては、ミリエはもう立ち上がれないかもしれない)
ルーギンがそう思ったとき、気が付いたら身体が動いていた。


「おお、これは素晴らしい作物ではないですか!」
突然響いたルーギンの声にミリエが驚きの表情を浮かべる。

「たくさん採れて栄養もある。しかも冷害に強く、やせた土地でも育つときては民も助かる!」
突然『イモ』に駆け寄ったルーギンが大声で褒めたたえている。

「お、おう……そういうものか……」
「これは陛下!ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます!遠征隊のルーギウス・フェリクス・ハルデン中尉であります!」

突然の大声に驚いてうめいた陛下に初めて気が付いたふりをしながらルーギンは敬礼した。

「ハルデンというは北辺のハルデン子爵の……」
「はっ、三男であります」

と答えると、それっぽい顔だなという表情で陛下がルーギンを見やる。

「うむ、元気でよい。武官は元気が大事だ。……その植物、余にはわからぬが良いものみたいであるな」
「はっ、大変良いものと存じます」
「では元気の褒美に持って帰ってよいぞ」
「……ありがたき幸せ!」

ミリエは事態についていけてないようで目を白黒させていたが、
泥のついた『イモ』の箱を抱えて敬礼するルーギンを見ると、黙って彼をずっと見つめていた。

(突然のことで混乱してるみたいだな)とルーギンは思った。

(俺もなぜこうなったのかわからないぞ)

 − − − − −


ルーギンは領地に『イモ』の苗を送り作付けするように指示したが、帰ると見事に誰も何もしていなかった。
『イモ』の苗が何なのかわからず遠巻きにして見守るだけ。

まぁ、さすがに説明もなしには無理かと思い家臣を集めて説明会を開いた結果、「聖典にないからダメ」という結論がでてしまった。

(陛下の命令と言えば……)
ルーギンは考える。
(いや、陛下は「持って帰ってよい」と仰っただけで、作付けしろとは仰ってない。勅命の偽造は死罪だ)

領主権限で植えさせようにも家臣たちが動かないのでは難しい。

経験と常識が新しいものを強固に阻んでいる。
そして自分の手には『イモ』の苗。

ならば自分でやるしかない。

「開墾は異大陸ぶりだな」

城の周りは敵が隠れられないように空き地にしている。
兵や馬の訓練にも使うので踏み荒らされ、到底農地に向いていない。

だが、異大陸での『イモ』畑を考えるに、やせた土地でも問題ないはず。
ルーギンは大きく振りかぶると、鍬を振り下ろした。

 − − − − −
 
イモは芽吹き、葉を伸ばし、やがて土の下で実をつけた。
初春に植えた苗は夏には立派に育ち、鍬を入れると土の中からごろごろと黄金色の実が現れた。

「おお……見事に育ったな」

ルーギンは汗に濡れた顔で満足そうに頷いた。
『イモ』の収穫は初めてだが、実の重さでいうと同じ広さで穫れるムギの何倍もあるかもしれない。

(これは絶対にいいものだ)というルーギンの思いと裏腹に、家臣たちは誰も近寄ろうとせず、遠巻きに見ているだけ。

今年は幸い寒波もなく、麦も豆も平年並みに実った。誰も飢えていない。
見たこともない聖典にも載っていない作物を進んで口にする者など、いるはずがなかった。

「ですから申し上げたンすよ、うまく行きっこないって」
口をひん曲げてルーギンの従者がぼやく。
異大陸遠征にまでついてきてくれた忠実な召使だが、『イモ』の収穫を手伝わされ、無理やり『イモ』を食わされたのが嫌なのかぶつくさ言っている。

「美味いって言ったじゃないか」
「へぇ、言いましたけれども、あっしはパンが食えるならそっちがええです」
「残念だったな、今日も『イモ』だ。好きなだけ食べていいぞ」
「ああ、畜生め、何てこったい」

と悪態をついているが、彼が『イモ』を何個もお代わりすることを知っているルーギンは苦笑して許してやっている。



そんな折、王都から馬車がやってきた。

「ルーギンさま、お久しぶりです!」

従者を従え、姿を見せたのは、遠征で共に汗を流した文官の少女……ミリエである。

家臣たちはざわめいた。
「知らない貴族のお嬢様が来たぞ!」
「奥方候補か?!」と囁く者もいる。

色めき立った家臣たちが見つめる中で、彼女が真っ先に案内されたのは城ではなくイモ畑であった。
「じゃあ違うか」
興味を失った家臣たちが三々五々解散するのを後目に、さっそく畑の土を踏みしめるミリエ。
土に汚れてもいいように乗馬ズボンと長いブーツを履いている。

「素晴らしいですわ」
収穫のため掘り返された新鮮な土の匂いに包まれながら、ミリエは芋を手に取ってうっとりとそれを見つめた。

ルーギンは頭をかきながら言った。
「せっかく収穫できたが、誰も食べようとしないんだ……。せっかく苗をもらったのに、申し訳ない」

ミリエはしずかに首を振る。
「いいえ!作付けだけでなく収穫までできるなんて……。王都でも、私がどれだけ勧めても誰一人口にすらしてくれず……」

そういう彼女の眼にうっすらと涙が浮かんでいる。

(いつも明るくて前向きな彼女が収穫ができたぐらいで泣くなんておかしい……)
そう思ったルーギンは思い切って尋ねてみた。

「あ、すみません、これは……その、個人的なことで……」
彼女は悩んだが、ルーギンの眼を見て決心したように話しだした。

彼女の家は代々王宮付きの医者だ。
父の代で王族の病を癒した功績で爵位と小さな領地を賜った。
だが作物の不作に伴って疫病が流行し、私財をなげうって父と彼女が治療と施しをしたが、ついに破産に追い込まれた。
借金を返すために領地を返上する羽目になり、それから無領地の「ローブを着た貴族」として王都で医業を続けてきたのだという。

「食べるものがなければ、人は本当に簡単な病で死んでしまうんです。だからこそ、この『イモ』をどうしても広めたいんです」
そういう彼女の眼は遠くの元領地を見つめているようだった。


農地を見て回った後に、ルーギンはミリエを夕食に招待した。 
『イモ』料理が並べられた会食の席で、二人は異大陸の思い出話や、農業や医業の話に花を咲かせる。

「いろいろと役に立つ植物はあるんですよ、御領地にも何か良いものがあるかも」
とミリエはいつも持ち歩いている古く分厚い植物図鑑を開いた。

様々な植物とその絵、活用方法が記載されており、とても役に立ちそうだ。

「見せてもらってもいいかな?」
ルーギンはぱらぱらと図鑑をめくると、『イモ』に似た丸い植物のページが目に留まった。

「トリュフですわね。地下で育つキノコの一種ですわ」

ルーギンはそれを聞くと考えこんでしまった。しかし、すぐに考えるのを放棄してつぶやく。
「トリュフも地下にできる。なのに『イモ』は下品……なんでかなぁ」
「難しいですわね……トリュフは王都では最高級の食材として珍重されていて。古典にも薬として載っているのですけど……」

それを聞いて、ルーギンはポンと手を叩いた。

「あ、つまりそういうことか」
「え?」
「だからさ……」
「なるほど……それならば!」

二人が楽しそうに顔を寄せて話し合うのを二人の従者が部屋の隅で目くばせしながら見つめていた。



会食が終わり、宿をとった神殿に向かうときに思い出したようにミリエが言った。

「ところで、ルーギンさまは軍服のときと口調が違うんですのね」
「あ……すみません、領地だとこっちの口調が素であれは軍務用で……というか隊長さんって呼ばないよね?」
「はい、隊長さんとどっちがいいか悩んだんですけど、軍服着てらっしゃらないからルーギンさまかなって」

「……ありがとう、ぶんか……ミ、ミリエ嬢」
ちょっと緊張しながらミリエを名前で呼ぶルーギン。
「こちらこそ、ルーギンさま」
それに対し無い裾を持ったふりをして礼をするミリエ。

「あはは」
「ふふふ」

二人は顔を見合わせると、どちらともなく笑いだした。


 − − − − − − − − −


数日後。
ルーギンの城でパーティが開かれた。王都から高名な医官の一族が来たので紹介したいと近隣の貴族を招いたものだ。
ミリエの父は王族の命を救った名医なので嘘ではない。
それに田舎貴族は王都の話題に飢えているので、王都から来た人というだけで客は集まった。


パーティでは当然ながらミリエを貴族たちが取り囲み、最近の王都の情勢や医療について次々に質問する。
それを見て、ルーギンはなぜか気分が落ち着かなかった。
(ミリエを紹介する口実で呼んだのだからこれでいいはずなのだけど……なんで落ち着かないんだ?)

なぜかそわそわしているルーギンは予定を繰り上げて本題に進むことにした。

「皆様、ご注目ください」
ルーギンは一つの箱を恭しく掲げた。
中には『イモ』が入っている。
ただし泥をきれいに洗い落とし、絹で包んで細かい木彫りの入った箱に入ったそれは、どこか気品さえ漂わせていた。

「高名にして賢明なる諸侯、これなるは異大陸遠征に際し、勿体なくも国王陛下御自ら下賜いただきました宝。その名も『亜種トリュフ』にございます!」

場の貴族たちから「おお」とざわめき声が広がる。

「なぬ、トリュフか?!」
「陛下から賜ったとは……」

ルーギンはさらに言葉を続ける。
「知識博覧なる諸侯がたには既にご承知のことと存じますが、トリュフとは王都でも殊に珍重される至高の食材にして、地中に宿るものでございます。」


「うむ! もちろん知っているとも!」
「当然であろう」
「博覧である故な」
口々に言い募る貴族たち。田舎者ではないかと気にしている地方の小貴族にとって王都の流行を知らないなどとは口が裂けても言えないのだ。特にほかの貴族の前では。

ミリエが話を引き取って続ける。
「私は不勉強ですが、たしか古典にも記載のある由緒のある食材で、白や黒など様々な種類があると聞いた覚えがございます」

「おお、その通りだ。若いのによくご存じだな!」
「余もトリュフはよく食べるが、いろいろな種類があるのは常識」
「陛下が下されたのに相応しい気品のある品ではないか」

貴族たちは見栄と王の権威、そしてトリュフという名前の前に称賛するばかり。

「これをぜひ特別に皆さまにのみ召し上がっていただきたいと用意してございます」
「それはかたじけない!」
「陛下のご下賜品とは勿体ないことだ!」


ルーギンとミリエが異大陸で食べたバター『イモ』の味を思い出して塩と油で濃いめに調理し、
香草をたっぷり振って匂いをごまかし倒した『亜種トリュフ』は大好評だった。


それを見たルーギンは高らかにこう宣言した。

「これは素晴らしすぎるため、貴族専用とし平民が食べるのを禁ずる!」

貴族たちは満座の拍手でそれを称えた。


 − − − − − − − − −


数日後、荘園にルーギンの従者の姿があった。
自慢げに農民たちに話しかけている。

「その亜種トリュフがヨ、お貴族様たちに大変ご好評でなぁ、
皮は香ばしく、実はほくほくとしていて見るだけでも眼福ってもんヨ」

農民たちが羨ましそうに従者を見やる。

「へぇ、『とりゅふ』ってのはそんなにええもんだか?」
「そういえば城主様が城の外でヘンな作物を作ってらしたな??」
興味をそそられた農民たちが『イモ』畑をのぞきに来る。

そこへ兵士が現れ「下民が触れてよいものではない!」と荒々しく追い払った。

「なんだい、ありゃあ」
「今まで誰でも入れる土地だったのに、急に追い出すなんてよ?!」
「先代様までこんなこたぁなかっただ」
「オラぁ怒ったぞ、下民に見せもしないなら、オラがこっそり一本引いてきてやらぁ」

その夜、怒った農民がこっそり畑に忍び込んだ。

「へへ、あの兵士も居眠りしてやがる。ざまぁみやがれ」

と首尾よく『イモ』を掘り出し、仲間で分けて食ってしまう事件が起きた。

「……うまい……!」
「これがトリュフかぁ、寿命が延びるだよぉ」
「ひょっとしてこれ、俺らも植えられるんでねぇか?」

やがて密かに自分の畑に植える者も現れ、噂は荘園全体に、また領外の荘園にも広がっていった……。


もちろん、ルーギンの思惑通りである。
噂を広めた従者と悪者と居眠りを演じた兵士には褒美としてたっぷりの『イモ』が渡された。



そして、あまりに荘園内に『イモ』の栽培が広がったため、
事態に怯えた荘園代官が「恐れながら」と相談してきた。

ルーギンはニコニコしながら、
「しょうがないな、代官が言うなら栽培を認めよう!」

こうして異種トリュフ、つまり『イモ』の栽培は広まることになった。


 − − − − − − − − −


しばらくたち『イモ』の普及が順調かと思っていた矢先、問題は起きた。


「収穫が落ちている……か」

作付けを重ねた畑での収穫量が目に見えて減ってきたのだ。

ルーギンはしばらく自分で考えたが、意味がないと思い直して王都のミリエに手紙を書くことにした。


ミリエはすぐに王都から馬車を飛ばして駆けつけてきた。
荘園の畑を見て回り、メモを取ると少し考えこんで言う。
「新しく作付けしたところは問題ないので……連作がまずいのかもしれませんわ」

同じ作物を何年も作り続けると、土の地力が減ってしまう。
そのため、土を消耗させるムギなどは土を回復させるマメ、牧草などと毎年入れ替えて作付けする、
輪のように作物を入れ替えるのでこれを輪作という。

「ムギのように輪作を行いましょう」
ミリエの提案で、輪作パターンをいくつか考案。それごとに畑を区分けしての実験が始まった。


 − − − − − − − − −

その翌春、寒波が王国を襲った。
北辺の領地は特にひどく、一面の麦畑は実を結ばず、干からびた穂が風に揺れている。
領民は青ざめ、年貢免除を求めて城に押しかけた。


混乱した領地に現れたのはルーギンの父と長兄であった。

父が厳かに宣言する。
「ルーギン、貴様の勝手な試みで民は飢えておる。ついては城主を解任し、直轄領に戻す」

長兄が言葉を継いだ。
「余計なことをせず、古来からの決まり通りやっていれば神の恵みがあったはずだ!」

(無茶苦茶な言い分だ、『イモ』の作付けと寒波は関係がない!……神?)

父と長兄の後ろには陰湿な笑みを浮かべている神官が立っていた。

(あいつが告げ口を?!)


ルーギンに下手な言い訳をするつもりはなかった。
そもそもそんなうまい言い訳など考え付くはずもない。


「父上、兄上、どうか三か月だけお待ちください。必ず領民を食わせて見せます」
「ムギがあの有様で何をどうしようというのだ!」
「できます!」

一方的に叱られるも、ルーギンは必死に食い下がった。
一生のお願いだ!ここで解任されるなら死ぬ!と言わんばかりに食い下がった。

「ふん、今も三か月後も変わらんわ。が、一揆がおきたら直ぐに兵を出すからな?」

根負けした父と兄が帰っていくと、ルーギンは荘園に走った。

「枯れたムギ畑に、『イモ』を植えよう!」



そして……三か月後。

荘園の畑という畑から、黄金色にきらめく『イモ』が山のように掘り返された。
領内に餓死者は一人も出なかった。

「『イモ』のおかげで助かっただ……」
「これこそ神の恵み、奇跡だ!」

農民たちが次々に神殿に報告し、神官も「確かに天の慈悲である」と認めざるを得なかった。
神官は農民のお布施で生きているので、農民に逆らうことは明日から食事に事欠くことを意味していた。
そしてそのお布施はムギから『イモ』に代わってしまった。

神は万能である。万能の神がムギを枯らし『イモ』を食えというのであれば、これは神のご意思である。

神官は苦虫を嚙みつぶしたような顔で『イモ』を食うのであった。



農民たちに来年の収穫まで十分な『イモ』を残しても、年貢分として大量の上納があった。
北辺領地はどこも飢饉なのに、ルーギンの城の倉庫だけがいっぱいだ。

ルーギンは「貴族専用という話もしましたが、天災なのでやむを得ないでしょう」
と余剰分を近隣の貴族領に支援した。

近隣貴族たちは気持ちよくそんな話を忘れ、感謝の言葉をルーギンだけでなく、領主であるルーギンの父と兄に届けた。

「……余は最初からあの『イモ』とやらは素晴らしいと思っていたのです」
「ええ、陛下のご下賜品ですから間違いがあるわけないじゃないですか……」

地方貴族は見栄張りである。ルーギンの父と兄も間違いなどは最初からなかったふりをして、感謝の言葉を受け取った。
そしてこっそりルーギン領の神官を入れ替えた。


もちろん、城主をクビにする話もなかったことになった。


 − − − − − − − − −


王城の大広間にて。

天井から吊るされたガラスのシャンデリアが、満載されたロウソクの火を受けてきらめく光を床に降らしていた。
その光は、まるで神の祝福が下されたかのように、膝まづく騎士を照らし出している。

「北辺の騎士、ルーギン・フェリクス・ハルデン。余が下賜した品を活用し国を飢えから救った汝の功績はまさしく偉大なり」

王の声に、列席する大貴族たちがどよめく、彼の話は王都ではすでに道を行く子供ですら知っているぐらいに広まっている。
泥にまみれた作物の将来性を見抜いた賢明な王と、その王の意思を忠実に実行し、国を飢えから救った実直な騎士の話。

(そういう話だったかなぁ?)

膝まづく北辺の騎士、ルーギンは考えるが、大筋ではあっているような気がするので難しいことは考えないことにした。

王都の大貴族、そしてその頂点たる国王は見栄張りである。間違いなどは何もなく、最初からすべて考え通りに進んでいたに決まっているのである。


「ゆえに、汝に男爵位を与える!」

ルーギンは深々と頭を垂れた。

「領地についてはハルデン子爵より、今の領地をそのままルーギン領として認めるとの申し出があった」
「ありがたき幸せ、子々孫々、王家への忠誠をつくします!」

ルーギンは心から王に感謝し、改めての忠誠を誓った。

(領地!子々孫々に受け継げる爵位!これで……)



謁見の帰途、王城の門で貴族の少女が待っていた。
大きな丸眼鏡に、艶やかな長髪を垂らし、医官のローブをまとっている。
その目はまっすぐにルーギンを見据え、頬は赤く染まっていた。

ルーギンはその前に膝まづくと、その手を取った。

「我が妻になっていただけますか、ミリエ嬢」
「……はい、ルーギンさま」




その後、ミリエは医療用アルコール消毒の知識を活用し、イモから蒸留酒を生み出した。
その酒は交易品となり、ルーギン男爵夫妻は国随一の富を築いた。


さらにミリエの輪作の実験は大成功を収め、以降、ルーギン領では休耕地をなくして収穫量を何倍にも膨らませた。


領民の子供たちは丸々と太り、飢えで苦しむ者はいなくなった。

そして国中に『イモ』は広まっていき、『亜種トリュフ』などという堅苦しい名ではなく、

いつしか誰ともなく『男爵イモ』と呼ぶようになった。


めでたし、めでたし。

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